【読書感想】小林麻衣子『西村賢太殺人事件』
西村賢太殺人事件 小林麻衣子 出版社:飛鳥新社 発売日:2025/10/23 人生に対する責任と亡失のエモーション 本書をどう評価してよいものか、悩む。 素直に感じたことを吐露するならば、「破滅型」私小説家の名に相応の回想録だと思う。著者は西村賢太氏の元恋人であり、ながらく東京・岡山間で半同棲していた身の上である。 本書は発売以来、賛否両論の激しい耳目を集めている。 西村氏の晩年には破局を迎えていたとはいえ、付かず離れずの関係が続き、著者の身の回りで起こる不可解な出来事が相俟う最中に衝撃的な死 ...
【読書感想】薄田泣菫 完本『茶話』(上・中・下 冨山房百科文庫)
名だたる文豪を輩出した明治文壇にあって、浪漫派・象徴派の詩人として名を馳せた泣菫は、大正の幕開けと共に随筆の世界に飛び込んだ。 大阪毎日新聞社に在籍しながらその紙面において、「茶を飲みながら喋る気楽な世間話」をコンセプトに延べ811編のコラムを執筆した。それがこの『茶話』だ。 古今東西、市井の人々から著名人、果ては歴史上の人物に至るまで、さまざまな逸話・風説、奇行・奇癖、失敗談などを「あたかも見てきたよう」に簡潔でユーモアあふれる文章で綴ったこのコラム群は、著者の広範な知識量と的確な人物評、 ...
【読書感想】セルバンデス『ドン・キホーテ』(岩波文庫)
セルバンテス『ドン・キホーテ』全6冊 (岩波文庫) 「人類史上最高の文学作品は?」と問われれば、私はこの作品を挙げる。 言わずと知れた名作中の名作。文学作品としてだけではなく、絵本や芝居など、およそ芸術作品と呼ばれる様々なジャンルで取り上げ続けられてきた作品だ。 とはいえ、正直なところ読んだ感想としては「ダルい……」の一言しかない。 この作品の翻訳など多数出てはいるが、果たしてそれらを読み通したという人はどのくらいいるだろうか? というのもこの作品自体そもそも長い。長いだけならまだしも、まず ...
【読書感想】岩尾俊兵『世界は経営でできている』
世界は経営でできている (講談社現代新書) created by Rinker Kindle Amazon 楽天市場 世界は経営でできている 岩尾俊兵 出版社:講談社(講談社現代新書) 発売日:2024/01/18 価値とは創造できるもの 本書は人間が成しうる所作言動、人間活動のさまざまな側面を「経営」という視点に落とし込み俯瞰している異色のエッセイ。「経営」という定義を理解するには十分すぎるくらいさまざまな角度が用意されている。特に芸術や歴史を経営の視点から切り込んだ切り口、着眼点には目を ...
【読書感想】高桑和巳『哲学で抵抗する』
哲学で抵抗する 高桑和巳 出版社:集英社(集英社新書) 発売日:2022/01/17 清く正しく実践する哲学的態度 本書は哲学の入門書でありながら、巷に跋扈する数多の哲学入門書と比して極めて異色である。それは本書が「哲学する」ことの入門書だからだ。 そもそも哲学とは、その本道たる哲学史の勉強に留まらない。つまり知識を身に付けるだけのものではないのだ。 本書では、哲学を「世界認識を変える知的抵抗」と定義し、それをもとにマイノリティがマジョリティに対する抵抗の中で「哲学」が立ち上がっいく様子 ...
【読書感想】村井康彦『藤原定家 「明月記」の世界』
藤原定家 『明月記』の世界 村井康彦 出版社:岩波書店(岩波新書 1851) 発売日:2020/10/21 元祖・自己中。あなたの血の色は何色ですか? かねてより、私もそこかしこで藤原定家について書き散らしているのはご存知かと思う。 cf,【とはずがたり】「『明月記』の後鳥羽院」よもやま話 そして書き散らすたびに「性悪だ」とか「人格破綻者だ」など、かなり辛辣な人物評も添えている。本書を読めばその言葉に嘘偽りがないことは確かに証明されるだろう(冷泉家の皆さん、ごめんなさい)。 本書はタイトルの ...
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『バガヴァッドギータ―』原典訳してみた!その1(Ⅰ・1~11)
さて『バガヴァッドギータ―』原典訳してみた!の一回目は第1章1~11節までです。 今回扱うテキストについては前説編を参照のこと。 テキスト ①dhṛtarāṣṭra uvāca / dharmakṣetre kurukṣetre samavetā yuyutsavaḥ / māmakāḥ pāṇḍavāścaiva kimakurvata saṃjaya // 1 // ②saṃjaya uvāca / dṛṣṭvā tu pāṇḍavānīkam vyūḍhaṃ duryodhanasta ...
『バガヴァッドギーター』原典訳してみた!その4(Ⅰ・31~39)
4回目は第1章31~39節。 記事一覧はコチラ→『バガヴァッドギーター』原典訳してみた!(第1章~第2章11節まで) テキスト ①nimittāni ca paśyāmi viparītāni keśava / na ca śreyo'nupaśyāmi hatvā svajanamāhave // 31 // ②na kāṅkṣe vijayaṃ kṛṣṇa na ca rājyaṃ sukhāni ca / kiṃ no rājyena govinda kiṃ bh ...
『バガヴァッドギーター』原典訳してみた!その6(Ⅱ・1~11)
6回目は第2章1~11節 記事一覧はコチラ→『バガヴァッドギーター』原典訳してみた!(第1章~第2章11節まで) テキスト ①sañjaya uvāca / taṃ tathā kṛpayāviṣṭam aśrupūrṇākulekṣaṇam / viṣīdantam idaṃ vākyam uvāca madhusūdanaḥ // 1 // ②śrībhagavān uvāca / kutastvā kaśmalam idaṃ viṣame samupasthit ...
インド二大叙事詩とヒンドゥー教の聖典について
【改訂記録】 ・2021/02/24 「あらすじ」欄に各巻・章のタイトル追記。 前説 インドの二大叙事詩『マハーバーラタ(Mahābhāratam)』と『ラーマーヤナ(Rāmāyana)』、そしてヒンドゥー教における最高の聖典と称される『バガヴァット・ギーター(Śrīmadbhagavad gītā)』について、その概要をまとめてみました(個人的な復習の意味も含め)。 かなりザックリとしたまとめになっていますが、本記事はちょっと実験したい部分もあって、今後も随時改訂したりしていきたいと思います。 ...
『般若心経』をサンスクリット原典で読む!
多分日本で一番有名な仏教経典である『般若心経』は、正式には『般若波羅蜜多心経』と呼ばれ、今から1600年以前、サンスクリット語で書かれた『Prajñāpāramitā-hṛdaya-sūtram』を漢訳したものだ。 そもそも『般若心経』は、仏になるために菩薩が行う修行・知恵(般若波羅蜜・般若波羅蜜多)を説く『般若経』という経典群の中のひとつで、大乗仏教の根本思想である"空"の思想を簡潔にまとめている。そのため、漢訳されたものもその短い文言の中で大乗仏教の根幹が説かれているとされ、多くの宗派で今なお用い ...
【読書感想】清水俊史『ブッダという男 初期仏典を読みとく』
ブッダという男 ――初期仏典を読みとく (ちくま新書) created by Rinker Kindle Amazon 楽天市場 ブッダという男 初期仏典を読みとく 清水俊文 出版社:筑摩書房(ちくま新書1763) 発売日:2023/12/07 人間・ブッダは何を語っていたのか ネット上を一時騒然とさせた仏教学界隈のアカハラ問題。その渦中にあった著者による「あとがき」が脚光を浴び、本書は刊行直後からベストセラーとなっている。若干そればかりが注目され独り歩きしている感は否めないが、本書は内容 ...
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【ご冗談でしょ定家さん!?】『明月記』講読その3~治承四五年記③(治承五・養和元年)~
引き続き、治承四五年記のうち治承五年について読んでいこうと思います。 目次 【凡例】 治承五・養和元年(1181)<定家20歳・従五位上侍従> ・式子内親王との邂逅(正月3日、九月二十七日条) ・高倉院、崩御(正月十四・二十日、閏二月三日条) ・平清盛、薨ず(閏二月四・五日条) ・姉の死(閏二月六・十二・二十四日、三月九日条) 参考文献 【凡例】 ・本文、訓読、意訳、注釈とコメントの順で記した。 ・底本には冷泉家時雨亭文庫叢書『翻刻 明月記』(全三巻)を用い ...
【隠岐ふたたび…】RE:後鳥羽院を巡るフィールドワーク~後編~
前回のあらすじ コロナ禍を経て念願の隠岐再訪を目指したワタクシ甚之助は、酷暑の中を必死の思いで隠岐・海士町に降り立った。 そして遂に、前回目の当たりにすることのできなかった後鳥羽院「お腰掛けの石」と対面する。 次いで、SNS上では長らく付き合いのある通称・元大賞さんと邂逅し、ふたたび隠岐神社・御在所&火葬塚跡へと足を踏み入れた。そこで目にしたものは「ひと夏の幻」だった……。 目次 ・पुनर्मिलाम ओकि・・・ ・キーポイント美保関 ・それからのこと 出雲国風土記 (講談社 ...
京の都とその周辺と【RE:後鳥羽院を巡るフィールドワークその2】
目次 プロローグ~そうだ京都へ行こう!~ 金ヶ原の裾野 私的聖地巡礼 参考文献 るるぶ京都’25 (るるぶ情報版) created by Rinker ジェイティビィパブリッシング Amazon 楽天市場 プロローグ~そうだ京都へ行こう!~ 2023年末、所用をかねて上京した折、一日半ほど予定がぽっかり空いてしまった・・・。 今までならこんな時、時間が出来れば国会図書館に籠るなりネット上のつながりのある人に片っ端から連絡を入れるなりするのだが、最近はなんだかそんな ...
【ご冗談でしょ定家さん!?】『明月記』講読その1~治承四五年記①(治承四年二月~五月)~
以前公開した『藤原定家「明月記」にみる後鳥羽院の姿』シリーズをやっていた頃から、いつかは『明月記』自体の講読もやりたいと考えていた。 ただ、当の『明月記』が難解極まりないことと、明月記研究会はじめ堀田善衛御大などさまざまな研究者や愛読者がすでに多くの著作や論文を出している。またネット記事なんかでもあちらこちらで書かれていることもあって、「今さら自分がブログ上でやってもなぁ・・・」と二の足を踏んでいた。 とはいえ相変わらずの性と言おうか、思いついたんだからやってみようかしらと、最近になって ...
後鳥羽院『遠島御百首』私見その3~秋 ニ十首~
・その1~春 二十首~ ・その2~夏 十五首~ ・その3~秋 二十首~ ・その4~冬 十五首~ ・その5~雑 三十首(上)~ ・その6~雑 三十首(下)~ 秋ニ十首 目次 三十六、かたしきの 三十七、よのつねの 三十八、秋されば 三十九、おもひやれ 四十、咲かゝる 四十一、ふるさとを 四十二、いかにせむ 四十三、なきまさる 四十四、いたづらに 四十五、おもひやれ 四十六、ふるさとの 四十七、野をそむる 四十八、あはれなる 四十九、はれよかし 五十、岡の ...
藤原定家『明月記』にみる後鳥羽院の姿 その7 承久元年~嘉禎元年・その後(第2・3巻)
後鳥羽院像に迫るための資料 (甚之助蔵 『大日本史料』第4輯、東京大学史料編纂所、昭和43年) ・【運命の四の宮】藤原定家『明月記』にみる後鳥羽院の姿 序奏 ・その1 治承4年~建仁元年(第1巻) ・その2 建仁2年~元久元年(第1巻) ・その3 元久2年~建永元年(第1巻) ・その4 承元元年~承元2年(第2巻) ・その5 建暦元年~建暦2年(第2巻) ・その6 建保元年~建保6年(第2巻) ・その7 承久元年~嘉禎元年・その後(第2・3巻) 目次 ●藤原定家 ...
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【浪人時代の思い出】アリミツ君とマコちゃんのこと。
受験シーズンも終わりに近づき、高校・大学はじめ、いろんなところで合格発表の知らせを耳にする季節となった。 毎年この時期になると、必ず浪人していた頃のことを思い出す。 私は某大手予備校で一年間浪人生活を送り、その間は予備校付属の寮で生活していた。 花の都・TOKYOに出てきたはずが、そこはなぜか木々の緑豊かで動物の鳴き声響くところだった。 人生初の満員電車。 都心ド真ん中にある予備校校舎へ通う日々。 起きてる時は(当然)勉強漬けだったが、ときどき破目を外して寮の仲間たちと長時間語り合ってい ...
歌人・鳥居さんに会ってきた~三浦綾子記念文学館講演会レポ~
6月13日、北海道旭川市在の三浦綾子記念文学館において、開館20周年を記念した特別講演会が開催された。 ゲストは"セーラー服の歌人"として注目されている歌人・鳥居氏だ。 キリンの子 鳥居歌集 2016年に本家・ネト見の方でも紹介した歌集『キリンの子』は現在までに累計2万部を売り上げている。また、彼女の壮絶な半生もまた注目されている理由のひとつに挙げられていると思うが、今回はそんな前提は一旦置いて、一読者として実際どのような人なのか気になっていたのでその講演会を聴きに行ってきましたというレポー ...
【妖怪博士の遺産】中野区立哲学堂公園を歩く!
Amazon 史上最強の哲学入門 Kindle版 2023年3月、3年前から世界を席巻した某ウイルスの流行も収まりをみせ、久々に(本格的な)上京しました。そのときブラっと『中野区立哲学堂公園』に立ち寄ったので、その時のレポートです。ひさびさの散歩記事。 さて、哲学堂公園への行き方は複数ありますが、今回は都営大江戸線落合南長崎駅から(その他のルートは記事末に記載します)。 A1出口から都道440号線・新青梅街道を西に向かって歩く。 途中、なんのご縁かこんな ...
あがた森魚さんの映画を見に行くin小樽【佐藤敬子先生を探して】
目次 前説 映画『佐藤敬子先生を探して』 私にとっての「あがた森魚」という人 脚注 Amazon 愛は愛とて何になる ◎前説 8月上旬、私は農作業の傍らで北海道のローカルラジオ番組に耳を傾けていた。 その番組の一コーナーにとあるミュージシャンがゲスト出演していたのだが、なにやら熱心に口角泡を飛ばす勢いで必死に言葉を紡いでいる。件のコーナーでは、さまざまなミュージシャンのメッセージが流されたりゲスト出演した後で楽曲が放送されるのだが、その日に限ってはなかなか曲に移らない。最終的に楽曲 ...
【溢れ出る昭和感】新宿の老舗食堂・長野屋で定食を食べる。
さて昨年末に上京していた折、久々に行ってみたのでサクッとレポートです。都内住のころ新宿界隈で用事があるとき、食事時なり小腹が空いたときなどにちょいちょい食べにきていたお店。 あのころangle 街と地図の大特集1979新宿・池袋・吉祥寺・中央線沿線編 Kindle版 風景は記憶の順にできていく 新宿駅東南口を出てすぐ。様々な飲食店がひしめく新宿の街のなかでひときわ異彩を放っているのがここ「長野屋」。 この建物に見覚えのある方も多いはず。 こちらの長野屋さんはその外観からもわ ...
【23区唯一の渓谷】等々力からめぐる東京古墳散歩♪
Amazon 私のオアシス 等々力渓谷 ※今年(2023年)03月にした散歩です。 例のウイルスも収まりをみせ、所用をかねて上京した折、長い付き合いの知人家族から「朝食でも食べにおいでよ~」とお誘いを受けたので、散歩がてら東京・世田谷区から大田区にかけての多摩川沿いを歩きました。 件の知人宅は東急東横線の多摩川駅が最寄りなのですが、今回は大井町線等々力駅からの出発。 早朝だから人通りもまばら。そういえばこの駅前も再開発云々でいろいろ変わってたな。 ...
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